Wearables Aid Healthcare

環境モニタリングとウェアラブルは医療に有益?

好むと好まざるとに係わらず、私たちは人類史上これまで経験したことがないほど多くの人々とつながり、IoT 対応デバイスとセンサーの数と種類は増え続けています。ただ、必ずしも悪いことばかりではなく( 「スマートな」デバイスのメリットに疑問を投げかけた私のブログを思い出す人がいるかもしれません)、環境センサーやウェアラブルデバイスの優れたアプリケーションは実際に医療に益することが可能なものもあります。

環境モニタリングの面では、大気汚染度が最も獲得しやすい情報でしょう。大多数の国で、たいていの都市には複数の場所にセンサーが配備されており、大気質指数(Air Quality Index、AQI )統計は容易に入手可能です。

水質汚染やその他の環境汚染については測定は容易ではなく、一般に研究室での分析や特殊な装置が必要とされます。したがって、ここでは大気のモニタリングに重点を置くことにします。

居住している市、家の隣近所、あるいは自分の家の大気汚染度は、どうすればわかるでしょうか?医療従事者は結果から何を判断することができるでしょうか?大気汚染度がなぜ健康問題に結びつくのでしょうか?

私たちが呼吸する空気は健康に直接影響を与えます。汚染物質が含まれていれば、呼吸器疾患などの様々な健康上の問題を引き起こす可能性があります。

重要なのは知覚すること

詳しい統計情報が提供されている中国の北京 のサイトを見てみましょう。このサイトで世界各地の都市の AQI を確認することができます。PM2.5(2.5 マイクロメートル以下の粒子状物質)の汚染が50未満のものは緑色で表示され、良好とみなされます。PM10 、NO2( 二酸化窒素)、SO2(二酸化硫黄 )、CO( 一酸化炭素 )などの他の測定値も確認できます。この中国サイトの数字は毎時更新されます。( 筆者が調査した米国のサイト ではその他の測定値は表示されていませんでしたが、これらの汚染物質は中国特有のものではなく、例えば NO2 や一酸化炭素は燃料の燃焼から放出され、発電所や自動車を含む輸送産業から排出される物質なので、米国のサイトにはそれらの測定値が表示されないのは、少し奇妙です。)

PM2.5の測定値は、これらの粒子が(保護マスクを着用しない限り)肺の深部まで吸い込まれてそこに留まるため、注意深く監視されます。もちろん、PM2.5だけが健康を害する唯一の犯人というわけではありません。

「人の呼吸器の健康に影響を与える要因は文字通り何百万とあります。PM2.5は、人の健康を害する様々な要因の1 つに過ぎません。しかし、データがなければ、医師は訓練されていない人物(患者)が診察室で医師の前に座って、考えられるすべての要素に注意を払い、正確に説明してくれるのを期待するしかありません。」と、 Foobot、スマート屋内空気質モニター、の開発会社である Airboxlab の共同創設者兼 CEO の Jacques Touillon 氏は話します。

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テクノロジーはこの分野で役立ちます。

「大量のデータを収集するスマートデバイスやウェアラブルは、医師に状況を理解するための道具立てを提供します。患者にはとうていできないことです。」とTouillon氏は述べています。

健康問題を訴える患者は、不調が自宅の環境に起因している可能性に思い至らないかもしれません。

「家のエネルギー効率をより良くする仕事をしているジョナサン・ウォーターワースという名前の HVAC 請負業者が、ある家で仕事をしていたとき、屋根裏部屋がカビで汚染されているのを発見しました。その家の子供たちは、生まれてすぐに深刻な呼吸器疾患を抱えていたことが判明しました。医者に診せても誰も明確な診断はできませんでした。一家の生活は病院の予約や投薬のスケジュールで制約され、症状を抑えるための手術さえも受けました。誰も呼吸器疾患の原因がカビであることには思い及びませんでした。IoT やウェアラブルで環境データが獲得できていたら、医師はその家の空気が清浄ではないことがわかり、もっと調査していたでしょう。そうすれば、ジョナサンが偶然カビを発見するまで待たなくても済んだはずです。」と Touillon 氏は話します。

 

町全体の統計値から家の測定値まで

Google ストリートビュー・カーに監視センサーを装備して行ったテキサス大学の研究 で、大気汚染がブロックごとに異なることが示されました。この調査結果を前提とすれば、 大気汚染測定アプリ は、住民が高汚染区域を避けることを可能にし、都市生活をより安全にすることができます。

この革新が起こると仮定して、それぞれの家はどうモニターするのがいいでしょうか?

「屋内では、細かい位置は無視してローカルセンサーから直接データを取得する方がいいでしょう。建物内は多種多様のものが複雑に配置されているので、緯度/経度の座標に基づいてある人が X の汚染にさらされたと決定することは不可能です。」と Touillon 氏は説明します。

屋外の測定は別の問題ですが、やはりテクノロジーには答えがあります。

「屋外については、我々のパートナーである Breezometer などの装置を使うことで、特定の場所での汚染状況を予測するのが容易になっています。比較的限られた数の屋外センサーからデータを取得し、複雑なアルゴリズムを使用して、特定の地域 (所番地まで) の汚染レベルを推定することができます。理論的には、位置データと汚染データの両方にアクセスすることで、これらの2つを相関させて、屋外汚染の程度を推定することができます。」と Touillon 氏は述べています。

モニタリングで診断を支援

前述の偶発的なカビ発見のようなケースを考えると、データ収集、解析、機械学習システムは、医療従事者にほかでは入手できない手がかりを提供できる可能性があります。

「機械学習は、さらに、ある種の情報源を指し示すパターンを特定することによって、おそらく、”これらの症状はカビの体内侵入で発生する症状と一致します、調査してください” などと伝えることで、医師の仕事をより簡単にすることができます。そのような情報が提供されれば、医師は、環境科学のバックグラウンドがなくても、何をチェックすべきかがわかります。もう一つ言うと、機械学習は、あまり詳細でないデータから推測することができるので、それほど洗練されていない(つまり、より手頃な価格の)センサーを使ってもより多くの洞察を与えることができます。とすれば、人々はまずセンサーを購入してみようかと思うようになるかもしれません。」と Touillon 氏は話します。

彼はまた、継続してデータを獲得することの重要性も指摘しました。

「スマートデバイスやウェアラブルを使ったモニタリングのもう一つの特色は、専門家が大気を測定に来たときにその時限りの大気質のデータを取得するのではなく、継続的に監視できることです。大気の問題は、夜間、寒い日や雨の日、または調理や清掃の後にのみ発生する可能性があります。1回だけの測定では簡単に見逃されてしまいます。また、継続的に取得すればデータ量は増え、データが適切で正確であればあるほど良い成果が得られる AI 診断に役立てることができます。」と、これらのテクニックを使って獲得された実例を喜んでシェアすると申し出るTouillon氏は述べました。

ライト州立大学の研究グループは、喘息の子供がいる家庭の環境をモニタリングしたいと考えました。具体的には、家庭で誰かが料理や喫煙をしている時間の数値を測定しようとしました。料理や喫煙は喘息問題を悪化させることが知られています。彼らは患者の家の中に Foobot 空気質モニターを置いて、誰かが料理や喫煙をしていたときはいつでも記録するようにしました。データ分析の結果、95.7 %の精度で調理、喫煙、それらのないコントロール状況を識別することができました。

結果として、子供が発作を起こした場合、医者は、まず環境要因を確認または除外するために屋内大気質データをチェックすることができるようになり、治療効果の向上が期待できます。

個人向けセンサーと研究用センサー

高い精度が重要である場合は、熟慮が必要です。

「センサーはますます進歩し、手頃な価格になっていますが、低価格に抑えられた個人向けセンサーは、研究で使える品質のハードウェアや研究レベルの精度に欠けています。医師が環境内のマイナス要因を特定するために必要とするレベルの精度は得られません。例えば、あるセンサーは大気中に揮発性の有機化学物質が含まれていると感知することはできますが、それがアンモニアかホルムアルデヒドかどうかは分かりません。通常、結果は同じです(健康を害するので、取り除くべきです)が、それは人の環境状態の全体像が完璧ではないことを意味します。」と Touillon 氏は説明します。

低価格に抑えられた個人向けセンサーは、研究用モニターシステムやデバイスよりもばらつきがあると同氏は付け加えていますが、それを考慮してもなお、購入を検討する価値はあります。 

Touillon 氏は、データ共有への抵抗感や、問題を解決しない製品を購入することへのしり込みもあり、「多くの人々は自分たちの生活にデータがどれほど影響を与えるかということを考え慣れていません。」と指摘します。

Touillon 氏は、教育の重要性を認めつつ、医療診断に益するための進歩は、屋内のセンサーであれフィットネス・ウェアラブルであれ、人々がテクノロジーを使用しデータをシェアすることを決断しなければ起こらないと確信しています。

「データがどれほど医療に貢献し得るかを理解し、データを利用することで外科手術を免れたり心臓の状態がよくなったりすることを理解すれば、人々はデバイスや医療提供者がもっとデータを利用することを期待するようになるでしょう。」と Touillon 氏は予測しています。

さらに、彼は、資格を得たばかりの新米医師と20年のベテラン医師の能力を比較することなどで機械学習が進むにつれて、「推測」やパターン分析がより正確になると予測しています。

それまでの間、環境要因をモニターするために家庭や企業にセンサーを配備するのはどうでしょうか?収集されるデータが多いほど、健康上の問題が発生したときに環境要因が関与しているかどうかを判断することが容易になります。従業員や家族の役に立ちます。ひょっとしたら、生命に係わる判断材料になるかもしれません。